先日四姉妹のお話を書きましたが
今回は別の四姉妹のお話です。
母の通帳
もうすぐ母の定期預金の満期日
三女の頼子さん(仮名)は母の住む実家に通帳を取りに来ました。
ところがいつもの場所に通帳がありません。
お母さ~ん、通帳どこかにやった?
通帳なら順子(仮名:四女)が持って行ったと思うよ
え~どうして?
さあ
なんなの勝手にお母さんの通帳を持ちだすなんて!
お姉さんに連絡しなきゃ!
四人姉妹の母は父が亡くなってからひとり広い家に暮らしています。
母親の財産は3000万円の定期預金と500万ほどの普通預金、そして評価額約2000万円の自宅です。
三人の姉対四女
四人姉妹はいずれも結婚して、長女と次女は他県に、三女は隣市に、四女は市内に住んでいました。
3人の姉達は四女の行動を神経質なほど警戒していました。
その理由は
①四女は小さな頃から甘えるのが上手で両親にいろいろなモノをねだっていたこと。
②四女は大学生のときに父親に軽自動車を買ってもらったのに、姉達の反発を恐れて、 両親と口裏を合わせ、自分でバイトして買ったと嘘をついていたこと。
③四女の家族が週末ごとに母の家に来て、毎度お寿司などの出前をとってもらっていること
④最近、四女が母親に車を買ってほしいと言ったこと。
⑤四女は父が死んで母が一人暮らしになったときに母との同居を提案したこと。
④の車のときは母親が
順子がね、車を買ってって言うのよ。うちの車は小さくてお母さんを誘って食事に行きたくても全員乗れないからって。どうしたものかしら
と言ったのですぐにばれて、もちろん姉達が反対して実現はしていません。
⑤の同居の話も、四女が母親と同居することになると遺産のほとんどが四女のものになってしまうのでは、と心配した姉達の大反対で実現はしませんでした。
というのが上の3人の考えです。
そして最近になって四女は介護ヘルパーの仕事を始め、訪問ヘルパーとして母の家に出入りしているのです。
だいたいさあ、給料をもらっているのに実母の家にヘルパーに入るなんておかしいわよね。
きっと事業所には母親であることを隠してるんじゃないかしら。
事業所に確かめましょう!
と相談していた矢先の通帳持ち出し事件だったのです。
別居の親族が訪問介護員である場合はすべて禁止されているわけではなく、自治体によって禁止している所とそうでない所があるようです。
3人はすっかり、四女が母に取り入って自分たちの知らない間に何かをするのではないかと疑心暗鬼になっていました。
次の日、2時間もかけて長女と次女がやってきました。
どうして通帳を持ちだしたの?
お母さんが管理していると危ないと思ったからよ
通帳の管理は頼ちゃんにお願いしてあるのよ
これからは私が管理してあげるわ
いいわよ、今までどおり頼ちゃんにやってもらうから。
頼ちゃんは家も近いし
一番近いのは私よ!
だいたいいつも3人だけで相談して何でも決めて変よ!
私たちは何もやましいことはしてないわ!
四女から通帳を返してもらい、3人は仲良く母が定期預金を預けている銀行に向かいました。
1年物の定期預金は金利などつかないし、自動更新になっているのでなんの手続きも要らないのですが、上の3人は毎年銀行で待ち合わせをして一緒にATMで記帳をして額面を確認するという作業を続けてきました。
母親のお金が減っていないか、つまり、4人のうちの誰かが母親に取り入って特別にお金をもらったりしていないか確認することが目的でした。母親のお金は母のものではなく、私たち娘のものということなのでしょう。
5年ほど前まではペイオフを考慮して1000万円ずつ3つの銀行に分けてあったのですが、管理が面倒ということで一つの銀行にまとめたのです。
そういう大事な話し合いにも部外者にされている四女は不満がいっぱいでした。
万が一金融機関が破綻した場合に、預金保険で保護される預金などの額は以下のとおりです。
「当座預金」など決済用預金に該当するものは、全額保護されます。
利息のつく普通預金、定期預金、定期積金などは、1金融機関ごとに合算して、 預金者1人当たり元本1,000万円までと破綻日までの利息等が保護されます。
預金保険機構ホームページより https://www.dic.go.jp/yokinsha/page_000134.html
母施設に入る
別居の親族が訪問介護をすることは禁止されていないこと、
母親が四女の介護を希望していることから
四女の勤める事業所は引き続き四女に母親を担当させていました。
そこで、三女が
お母さんに施設に入ってもらったらどうかしら?
入居費用が要らなくて、月々11万円台で入れる安い施設が最近できたのよ。場所は不便な所にあるんだけど、すごく親身で評判がいいのよ。
11万円に別途費用が加算されても遺族年金で十分払える額だし、
こんな条件の良い施設なんてなかなか見つからないと思うわ。
みんなで見学に行ってみましょうよ。
と言い出したのです。
施設に入らなくても順子がきてくれるし…
と母親は困った様子でしたが、
とてもいい施設なのよ。この先もうこんなチャンスはないかもしれないから
と説得し、
みんながそのほうがいいと言うならそうするわ
と応じてくれました。
3人は待ち合わせをして毎月1回、母親の施設に会いに行っていました。
ある日、3人が施設の母の部屋に行くと先に四女が来ており、
ふんっ!
3人の顔を見ると「フンっ」として出て行きました。
何も帰らなくてもいればいいじゃない。
まるで泥棒猫みたいにコソコソと嫌だわ
と姉達も聞こえよがしに言うなど、姉妹仲はますます険悪になっていました。
お願いだから仲良くしてね
お母さんは何も心配しなくても大丈夫よ
順子よく来るの?
しょっちゅう来てくれるよ
四女が母親に取り入っているのではとまたも疑いの目を向ける姉達でした。
遺言書作成
今のうちにお母さんに遺言書を書いてもらったどうかしら?
頼子が何するかわからないし。そのほうが安心じゃない?
判断能力(遺言能力)がなくなったらもう書けなくなるのよ
とまたも三女が提案しました。
遺言書作成は母親本人の意向でなくてはなりません。他の者に誘導されて作るものではあってはならないのです。
遺言書があれば姉妹で争いになることもないし、今はみんな作る時代なのよ
と母親を説得して
あくまでも母親自身の意向であるとして、母親が定期預金を預けている銀行の遺言信託の事前説明を申し込みました。
銀行の担当者は母親本人と面談するため施設にやってきました。
確かに母親が遺言書作成を希望していることを確認し、相続人や財産について聞き取りが行われました。
多くの高齢者の遺言書を作成してきたベテランの担当者は、母親を緊張させないよう、疲れさせないよう、上手に聞いてくれました。
突然の仲間割れ
必要書類も揃い、公証役場に予約も入れた後、
突然長女から
遺言書を作るのはやめましょう!
と三女に連絡がありました。
なぜだか怒っている口調で、三女には理由がわかりませんでしたが
とにかく、施設に入れたり遺言書作らせようとしたり、あなたの決めた通りになっていて、玲ちゃん(仮名:次女)が怒ってるわ。
通帳は今度から私が管理するから返してちょうだい!
と言うのです。
三女はいつも姉達に気を遣ってきました。自分が有利になるようにしようと思ったことはありませんでしたが、長女の態度は頑なでした。
長女の話にあいづちを打っただけの次女は、三女との仲もこじれ、長女に対する不信感を募らせていき、3人はほとんど連絡を取り合うこともなくなり、翌年の母の定期預金の満期日には長女がひとりで銀行に行きました。
今、3人の姉たちは母の元にほとんど顔を出さなくなり、四女だけが頻繁に訪れています。