美恵子さん(仮名)65歳は3年前にご主人を亡くしました。
なんでも美恵子さんの言うことを聞いてくれる
思いやりのある優しいご主人でした。
ご主人が亡くなってから美恵子さんはいつも
早くご主人のところへいきたい
と目を潤ませていました。
二人には子供がいません。
若い頃は子供が欲しくて欲しくていろいろな努力をしましたが
授かることはできませんでした。
子供が大好きだったご主人は結婚当初から
子供ができたらこんなことをしてあげたい
あんなこともしてあげたい
どこにでも連れて行ってあげたい
といつも口癖のように言っていましたが、
子供ができないまま長い年月が過ぎていったのです。
美恵子さんに生理が来るたびに
ご主人は、美恵子さんの前では明るく振る舞いながら
本当はひどく落胆していました。
美恵子さんはそのことを知っていたので
他の女性との間に子供を作ってもいいわよ
嫌味で言ってるんじゃないの
本当にそう思ってるのよ
と言ったことがありました。
そのときご主人は
俺たちのところに子供は来てくれなかったけれど、
俺には美恵子がいるから、俺は幸せだよ。
もう子供は諦めよう。辛い思いをさせてごめんな。
と言いました。
その日、二人は抱き合って泣いたそうです。
ちょうどその頃、ご主人の一番下の弟に子供ができました。
ご主人はその甥っ子が可愛くて可愛くて
仕方がありませんでした。
甥っ子も優しくておもしろい伯父ちゃんが大好きで
自分の父親よりも甘えていました。
そんな甥っ子が大人になり、結婚し子供ができました。
美恵子さんたちご夫婦は、今度は
その子供を孫のように可愛がりました。
甥っ子のお嫁さんも性格がいい人で、
子供のいない伯父夫婦を気遣い、
よく赤ちゃんを連れて遊びに来てくれました。
なので、
ご主人が亡くなったとき
この甥っ子夫婦は、美恵子さんと一緒に悲しみ、
励ましてくれました。
そして、以前よりも頻繁に遊びに来てくれるようになりました。
可愛い盛りの幼子がよちよちと歩き回る姿に癒されて、
美恵子さんも、そのときだけは寂しさを忘れることができました。
そんなある日、美恵子さんから相談を受けました。
私が亡くなったら遺産を甥っ子に遺したいの
美恵子さんが亡くなった場合
法定相続人は、
美恵子さんの妹と亡くなった姉の娘たちです。
甥っ子には相続の権利がありません。
美恵子さんが4分の3、
ご主人の弟たち3人が12分の1ずつ相続しました。
ご主人の甥子さんに遺産を遺したいなら
遺言を作らないといけませんね
全部甥子さんでいいんですか?
主人もあんなに可愛がっていたし
主人が死んだ後は、私のことをすごく気遣ってくれているのよ
それに
私は専業主婦だったから
私が今持っている財産は
全部死んだ主人が遺してくれたものよ
だから、主人の甥っ子が受け継ぐべきだと思うの
そうしたら
きっと主人も喜ぶと思うわ
美恵子さんは清々しい表情でそう言いました。